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知っておくべき医療用医薬品の副作用1

「高血圧の治療薬で、痛風になることがあるんですか?」と高血圧で来院される患者さんが、診察室に入るなりこのような質問をしてきたそうです。なんでも、健康雑誌に書いてあったとのことで、「ビール好きなので痛風にはなりたくない」と言うのです。 また、日本ではほとんど報道されていませんが、「アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)」という降圧薬が、肺がんの発生に関係しているのではないか、という研究が発表され、専門家の間で物議をかもしています。

高血圧の薬で、痛風になることがある?

たしかに、高血圧の治療に用いる薬(降圧薬)の中には痛風につながる副作用を持つものがあります。

それは、「サイアザイド系利尿薬」「ループ利尿薬」などです。利尿薬を服用すると、尿量が多くなり水分が排出されるので、血液量が少なくなり、血管壁にかかる圧力を抑えます。つまり血圧は下がるのですが、高尿酸血症を招き、痛風を引き起こす可能性が出てきます。

いっぽう、「ACE阻害薬(血圧上昇に関係する物質であるアンジオテンシンIIの合成を阻害する)」「カルシウム拮抗薬(カルシウムイオンが血管の細胞内に入ると血管が収縮する。それを防ぎ血圧を下げる)」は、尿酸代謝に悪影響をおよぼしません。

また、「アンジオテンシンII受容体拮抗薬(=ARB。アンジオテンシンIIの働きを抑える)」は、尿酸値を上げることはなく、逆に下げる作用を持つものもあります。

ちなみに、痛風の原因物質のプリン体を多く含むビールは、痛風の大敵と言われてきました。ところが、いまは「どんな酒でもたくさん飲めば尿酸値は上がる。つまり、アルコールの摂取量が問題であり、ビールだけを目の敵にするのはまちがい。むしろ、ビールには合併症のひとつの尿路結石をつくりにくくするメリットもある」と変わってきています。

ただし、高血圧の薬を飲みながらビールをたくさん飲むのは考えものです。上記の件の患者さんには、「1日500ミリリットル1本程度にしてください」とアドバイスをしたことは言うまでもありません。

高血圧の薬で、がんの危険性が高まる?

発がん云々のきっかけとなったのは、2010年6月に「Lancet Oncology」という英国の雑誌に掲載された論文です。この論文は、過去に行われた多くの臨床試験の結果をまとめて統計的な処理を施し、新たな学説に結びつけるというタイプの研究で、「メタアナリシス」と呼ばれるものです。

それによると、過去5年の臨床研究を「統合」したところ、ARBを服用していた患者さんで、「肺がんの発症率が25%程度上昇していた」という結果が得られたと言うことです。

ただし、なぜARBを服用すると肺がんが発生するのか、メタアナリシスという性格上、まったく言及されていません。また、論文に採用した過去の臨床試験の対象者は60代が中心です。この年齢層の方は、いわゆるがんにかかりやすい年代ですから、発がんした方がたまたまARBを服用していたとも言えます。

つまり、この薬と発がんの関連を示す、明確な科学的根拠はありません。

たしかに、高血圧の治療に用いる薬(降圧薬)の中には痛風につながる副作用を持つものがあります。それは、「サイアザイド系利尿薬」「ループ利尿薬」などです。 また、医師は薬剤の服用に発がんの可能性があると科学的に立証されたのであれば、それを患者さんに伝える義務があります。ただ、あまりにも根拠にとぼしい論文を取り上げて、患者さんに知らせるのはいたずらに患者さんの不安を増幅させるだけですので、注意が必要です。

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