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登録販売者、採用の現場から

登録販売者試験頻出! 薬害の歴史

これまで日本では数多くの薬害が起きました。薬害や医療事故が起こらない社会を築くために、過去に起きた薬害を学ぶことは重要です。登録販売者試験にも必ず出題されますが、悲しい歴史を風化させないために学ぶということをぜひ意識してください。

サリドマイド訴訟について

サリドマイド製剤による先天異常の発生

催眠鎮静剤として承認され、胃腸薬にも配合されていたサリドマイド製剤。妊娠した女性が服用すると、血液—胎盤関門を通過し胎児へ移行し、出生児に四肢欠損、耳の障害等の先天異常(サリドマイド胎芽症)が発生したことに対する損害賠償訴訟がサリドマイド訴訟です。

国と製薬企業が被告として提訴され、1974年に和解が成立しました。

サリドマイドは光学異性体をもち、S体には、催眠鎮静作用はなく、血管新生を妨げるという副作用が存在しました。

R体には有効性があり、催奇形性はありませんが、R体だけを摂取したとしても体内でS体に転換してしまうことも後にわかりました。

サリドマイド訴訟からの教訓:医薬品等安全性情報報告制度の創設

サリドマイド薬害の問題点は、問題が発覚してから回収に至るまでの対応の遅さです。

1961年11月に西ドイツのレンツ博士によりサリドマイドの催奇形性について警告が発せられ、西ドイツでは製品回収が開始されました。

日本には翌12月に警告が届いたものの特段の措置は取られませんでした。翌1962年に再び警告が発せられるも、すぐに対応せず5月になって出荷停止、販売停止と回収措置に至っては9月に行われました。

サリドマイド薬害は世界的な問題となり、WHO加盟国を中心に市販後の副作用調査の重要性が改めて認識され、情報収集体制の整備が図られました。

また、当時は光学異性体の違いによって有効性や安全性に差が生じることが明確になっていませんでしたが、その後新たな有効成分の承認の際は光学異性体の有無や有効性・安全性等の確認、評価がされるようになりました。

スモン訴訟について

キノホルム製剤によるスモンの発生

スモン(SMON)とは亜急性脊髄視神経症のことで、整腸剤として販売されたキノホルム製剤が原因でスモンに罹患したことによる損害賠償訴訟がスモン訴訟です。

国と製薬企業が被告として提訴され、1979年にスモン患者との和解が成立しました。

スモンは腹部の膨満感に始まり、激しい腹痛を伴う下痢を生じ、次第に下半身の痺れや脱力感が現れる症状です。麻痺は上半身へと広がり全身症状が現れ、失明することもありました。

スモン訴訟からの教訓:医薬品副作用救済制度の創設

スモン薬害では原因が新薬でなく、昔から使用されている医薬品で安心との誤解があり、被害の発生から原因究明まで時間を要したことが問題の1つです。

キノホルム製剤は、1958年に神経症状が報告され、アメリカでは1960年にアメーバ赤痢に使用が制限されましたが、日本では引き続き汎用されました。

1960年代頃からスモンの症状が多発するようになっていましたが、原因不明とされ、1970年にようやくキノホルムがスモンの原因として販売中止が決定しました。

スモン患者に対しては、治療研究施設の整備、治療法の開発調査研究の推進、重症患者に対する介護事業等が講じられています。

医薬品の副作用による被害救済のためには、訴訟を提起してから救済されるまでに長期間を要し、かつ被害者側に立証責任があり、様々な困難を伴います。

サリドマイド訴訟、スモン訴訟を契機に、1979年に医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図るための医薬品副作用被害救済制度が創設されました。

HIV訴訟について

HIVに汚染した血液凝固因子製剤使用によるHIV感染

血友病は血液凝固因子を十分に保有していないため、出血した際止血までに時間のかかる病気です。

この治療として用いられる血液凝固因子製剤の原料血漿にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が混入していました。これを加熱してウイルスを不活化することなく使用し、血友病患者がHIVに感染したことによる損害賠償訴訟がHIV訴訟です。

国と製薬企業が被告として提訴され、1996年に和解が成立、国はエイズ治療・研究開発センター及び拠点病院の整備や治療薬の早期提供等の取組みを推進しています。

また、1999年に「誓いの碑」を立て2度と医薬品による悲惨な被害を繰り返さないよう努めることを誓っています。

HIV訴訟からの教訓:感染症報告の義務づけ、血液製剤の安全確保対策

承認審査体制の充実、製薬企業に対し副作用報告に加えて感染症報告の義務づけ、緊急に必要とされる医薬品を迅速に供給するための「緊急輸入」制度の創設等が盛り込まれた改正薬事法が施行されました。

また、血液製剤の安全確保対策として検査や献血時の問診の充実が図られるとともに、薬事行政組織の再編、情報公開の推進、健康危機管理体制の確立等が行われました。

CJD訴訟について

プリオン汚染のヒト乾燥硬膜使用によるCJD発症

CJDとは、クロイツフェルト・ヤコブ病のことで、細菌でもウイルスでもないタンパク質の一種であるプリオンが原因とされています。

プリオンが脳の組織に感染することで次第に認知症に類似した症状が現れ、死に至る重篤な神経難病です。脳外科手術等に用いられていたヒト乾燥硬膜を介してCJDに罹患したことに対する損害賠償訴訟がCJD訴訟です。

国、輸入販売業者及び製造業者を被告として提訴され、2002年に和解が成立しました。ヒト乾燥硬膜の原料が採取された段階でプリオンに汚染されている場合があり、プリオン不活化のための十分な化学的処理が行われないまま製品として流通し、脳外科手術で移植された患者にCJDが発生してしまいました。

CJD訴訟からの教訓:生物由来製品の安全対策強化、感染等被害救済制度が創設

生物由来の医薬品等によるHIVやCJDの感染被害が多発したため、2002年の薬事法改正により、生物由来製品の安全対策強化、独立行政法人医薬品医療機器総合機構による生物由来製品による感染等被害救済制度の創設がなされました。

サリドマイドとキノホルムのように一般用医薬品でも使用されている医薬品が薬害の原因となることがありました。一般用医薬品の販売等に従事する登録販売者は、医薬品の情報提供や副作用報告等を通じて、医薬品による健康被害の拡大を防止する責務を担っていることを忘れないようにしましょう。  

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