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知っておきたい薬剤知識 ~甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病)の治療薬~
バセドウ病・橋本病の薬物療法
バセドウ病の薬物療法の中心は、甲状腺ホルモンの合成を抑制する抗甲状腺薬です。ホルモン量のバランスに影響するため、規則的に服用する必要があります。症状の程度によって薬の量を調整しつつ、数年単位で服薬を継続します。
橋本病の薬物療法の中心は、甲状腺ホルモン製剤です。一時的な甲状腺ホルモン低下状態の場合は、服薬を始めて徐々に減量させることが可能な場合がありますが、一生甲状腺ホルモン製剤を飲み続けることもあります。
バセドウ病の治療薬:抗甲状腺薬
メルカゾール(チアマゾール)、チウラジール・プロパジール(プロピルチオウラシル)
抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモン合成を抑制します。現在、日本において用いられている抗甲状腺薬はチアマゾール、プロピルチオウラシルの2種類のみです。
両者を比較すると、チアマゾールの方が作用時間が長く、早くに甲状腺機能を正常化させることができ、副作用も少ないとされています。そのため、チアマゾールが第一選択薬です。バセドウ病は妊娠可能年齢である30~40代ぐらいの女性に多い疾患でもあるため、妊娠時の抗甲状腺薬の服用に関しても注意が必要です。
チアマゾールは妊娠初期の服薬により胎児の催奇形性が報告されていることから、妊娠を望む方はプロピルチオウラシルを服用する方が無難とされています。
また、抗甲状腺薬は比較的副作用の発現率が高いと言われています。特に服用開始後2~3ヶ月以内に副作用が起こることが多いです。蕁麻疹やかゆみ、肝機能障害などが現れることがありますが、適切に対処すれば問題ありません(抗ヒスタミン薬などのかゆみ止めなどを併用することが多いです)。
最も注意しなければならない副作用は無顆粒球症です。無顆粒球症の初期症状は、発熱やのどの痛みといった風邪のような症状であるため、風邪かも?と安易に放置しておかず、すぐに病院を受診する必要があります。
橋本病の治療薬:甲状腺ホルモン製剤
チラーヂン(レボチロキシン)、チロナミン(リオチロニン)
甲状腺ホルモンはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があり、レボチロキシンは合成T4製剤、リオチロニンは合成T3製剤です。甲状腺ホルモンとしての作用が強いのはT3の方ですが、体内から排泄される時間も早いといった特徴があります。そのため、体内で甲状腺ホルモンの安定した濃度を維持するためにT4製剤の方を用いることが多いです。
薬として服用した甲状腺ホルモンと、体内で作られる甲状腺ホルモンに違いはありません。そのため、体内で不足した分を補う量を飲み続ける限りは、大きな副作用が現れることは考えにくいと言えます。
しかし、甲状腺ホルモン製剤の効果を減少させる食品や、その他の薬との飲み合わせによって影響を受けることはよく知られています。例えば、野菜ジュースやコーヒーは甲状腺ホルモン製剤と消化管内で結合しやすく、甲状腺ホルモン製剤の体内への吸収を妨げます。
胃酸分泌を低下させるような胃薬も甲状腺ホルモン製剤の体内への吸収を妨げます。特に胃薬はドラッグストア等で簡単に購入できるので、登録販売者としても甲状腺ホルモン製剤が併用薬ではないかはお客様に確認したいポイントの一つです。
サプリメントにも要注意
全身の代謝が悪くなる橋本病では、体重増加がその症状として現れることがあります。そのため、「これで痩せる!」と謳われるようなサプリメント(ダイエットサプリ)の使用を考えられる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、アメリカなど海外製のダイエットサプリの中には、その成分として甲状腺ホルモンが含まれていることがあります(日本においては、甲状腺ホルモンが含まれるダイエットサプリは販売禁止です)。
実際に甲状腺ホルモンが含まれている海外製のダイエットサプリを個人輸入して服用し、健康被害が起きたケースもあります。
ダイエットサプリを服用すると、その分甲状腺ホルモンが過剰になるため代謝が良くなり、確かに簡単に体重を減らすことができますが、他の甲状腺機能亢進症状が現れる可能性があります。甲状腺ホルモンにはそのような危険もあることを知っておきましょう。
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